京都駅の2番〜7番ホーム西側(神戸方面)は、大正15年(昭和元年、1926年)から昭和2年(1927年)にかけて増築されています。
『週刊 JR全駅・全車両基地』によると、写真に見られる4番・5番ホームの木造上家も大正時代に建設されたとあります。
『週刊 JR全駅・全車両基地』によると、写真に見られる4番・5番ホームの木造上家も大正時代に建設されたとあります。
今回は、二年程前から疑問に感じていたこの4番・5番ホームの件についてまとめました。
まずは5番ホーム側の古レール柱に刻印されている年代を確認してみます。
5番ホーム側の柱に唯一使用されている古レール
レールは丈夫な為、明治時代から貴重な材料として駅の上家や柵等に再利用されることが非常に多く、京都駅も例外ではありません。また、レールの側面には製造年月や重さ(kg)等の情報が刻印されている為、謎を解く鍵にもなることがあります。さて、上記写真の古レールは「官営八幡製鉄所で1932年(昭和7年)8月に製造された30kgのレール」と刻印されていました(写真では製造年が1982と見えますが、指でなぞると1932と分かります)
古レールだけを見れば昭和7年以降に増築された上家と推測出来ますが、このホームで確認出来る古レールの柱はこの一本(レール二本を溶接し一本の柱に加工したもの)のみの為、上家の修復の際に使用されたとも考えられます。
表示を確認してみると「1937.3」とありますので、1937年(昭和12年)3月に設置されたもののようです(京都駅〜吹田駅間の電化・昭和12年)
この構内電柱は屋根を貫いていますが、後年にわざわざ屋根に手を加えて設置するのに労力が掛かりそうです。
しかし、これだけでは「上家の増築年代が大正時代では無い」という決定打にはなりません。
ただ、本当に大正時代に増築されたものなのだろうか、という疑問も残ります。
そこで京都駅に関する図面を探していたところ、先日、証拠となる青写真をようやく発見しました。
『第3番乗降場上家増築その他工事(全体図)』
全体的に見ても、疑惑の4番・5番ホームのものと見て間違いないようです。木造上家についても記載がありました。この青写真によると、増築の為の設計がなされたのは、1956年(昭和31年)3月。週刊誌に記述された年代と全く違います。
違和感を感じていた構内電柱は、4番・5番ホームの上家が増築される以前に設置されたのです。
4番・5番ホームの上家増築に関する青写真(一部抜粋)
上家の柱に30kg古レールを使用する、との指示が記載された設計図も確認出来ました。古レールを使用した理由は確認出来ませんでしたが、他の柱よりも深い場所から設置する必要があったようです。
4番・5番ホーム上家が増築されたのは大正時代ではなかったことが、発見された設計図によって証明されました。
京都駅について書かれた書籍や雑誌は多くありません。しかも、手に取りやすいものの中には記憶が曖昧のまま書かれていたり、確実な取材を行なっていないものもあります。
京都駅に限ったことではありませんが、情報を鵜呑みにせず、少しでも疑問に感じたらご自身で調べてみることをお勧めします。
【参考文献】
『週刊 JR全駅・全車両基地 06 京都駅・城崎温泉駅・若狭本郷駅ほか/梅小路機関区ほか』朝日新聞出版
『京都駅改良工事の内 第3乗降場上家その他工事』日本国有鉄道大阪工事事務所
『鉄道ピクトリアル No.330』鉄道図書刊行会
『神戸鉄道局年報』神戸鉄道局